こんにちは。かねしろ@pinkrootです。
弊社misosilのメンバーで、近年注目を集めてやまないエストニアに行ってきました。
大変学び・気付きの多い視察旅行だったのでエッセンスを共有したいと思います。
「電子政府」が注目を集めるエストニア
エストニアといえば電子政府。電子政府といえばエストニア。
そう想起されてしまうほど、最近のネット上では「エストニアの電子政府が凄い。未来感ある」といった話題がちらほらと。
なんでも、e-Governmentとも呼ばれる電子政府を推進しており、行政関連の手続きや選挙までインターネット上で実施できるというのです。
人口は130万人程度で、僕の出身地沖縄県よりも少ないというのにIT化の進度は雲泥の差。
電子の世界でビジネスをしている身としては気にならないわけがなく、この目でその凄さを垣間見て、活かせるところは吸収してこようと意気込みファーストでエストニアへと旅立ってきました。
場所としてはロシアの西でバルト海に望む地域です。
今回の旅程ではロシア経由でエストニアのタリンへと行ってきました。
ちなみに海外旅行は6年ぶり3度目という感じで、多少緊張しながらの旅路となりました。
が、何も問題なく旅路を終えることができたので、海外経験少ない方にもエストニア視察はおすすめです。
無料で電子政府について説明が聞けるショールームへ
事前リサーチにより、なんとエストニア政府公式のショールームがあり、そこで電子政府についての説明をして頂けるということが分かっていたので、サクッと予約をしておりました。
webのフォームから送信を行うと、2日程度で担当者から連絡が入り、無事アポイントメントが完了しました。
自動応答のメールによると3営業日ではレスを返してくれるそうです。
予約完了後には各種規約に同意を行ったり、参加者個々人の詳細な情報(氏名や連絡先など)を登録する必要があり、そのアナウンスがメールにて行われます。
予約される方はお忘れなきよう。
なお、予約に関する返信の段階で
- 何名と同時に聴講することになるか
- その人達はどこの国のどういった人達か
- 別の時間に変更することであなた達だけの聴講も可能だがどうするか
といったことも教えてくれました。非常に丁寧な印象。
僕たちのケースだとフィンランドからのグループとギリシャ人2名との同時聴講になるとの事前情報で、当日も概ねそのような感じでの実施となりました。
ショールームの場所は空港からも中心部からも近く、アクセスが非常に楽でした。
Uber的なタクシーアプリを使って安く楽に向かうことができました。
ショールーム内部はハイテクのオンパレード
ショールーム内部はこのような感じです。
エストニア出身の企業ロゴやそのプロダクトが展示されていたり、電子政府の理念や概要が書かれていたりなどし、それを見て回るだけでも「いかにエストニアがIT・インターネット・電子化に力を入れているか」が伝わってきます。
個人的にほっこりしたのは講演者のテーブルが木製だったという点。ハイテクと木の融合。自然とITの調和。哲学。
本当に手続きのほとんどがネットで完結する
さて、実際に講演内容はというと、
PowerPointや動画を使っての電子政府の概要・意義の説明から、実際のネット上のサービス画面を使ったデモまで行ってくださる至れり尽くせりな内容でした。
講演はもちろん英語。
かつ、予約に関するメールの段階で
「proficient level of English」
が必要だから、自信がなければ通訳を連れてくるようにと言われていたので内心ドキドキしていたのですが、
非常に平易でかつ聞き取りやすい英語だったため概ね全編にわたって理解をすることができました。
電子政府化を推進している国はいくつかある
「電子政府というばエストニア」という事前知識しか持ち合わせていなかったのですが、
例えばフィンランドやノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国やデンマークなど他国でも電子政府化は進んでいるそうです。
エストニアは最初から電子政府先進国だったわけではなく、先んじて取り組みを行っていたそれらの国から情報や事例を収集し、
成功事例をうまく取り入れ、失敗事例を改善していくということをスピーディーに行っていくことで電子政府としてグローバルトップの国になったとのことでした。
ベンチャー界隈でもファーストプレイヤーではなく後から参入した企業が市場を制覇したり先に上場したりする事例が多々ありますが、それと同じような印象を受けました。
先人から学ぶのは大切。
不動産取引と結婚・離婚以外は電子化されている
デモも見せて貰ったのですが、インターネット上での手続きで多くのことが完結します。
噂は本当だったのか。
例えば車の売買およびそれに伴う名義変更。
「現所有者」「譲渡先」のID(日本におけるマイナンバーのようなもの)を入力し、売却額などの項目を埋めて送信すると公的な手続きは完了します。
カルチャーショックだったのは、このIDに対する扱いです。
日本のマイナンバーだと「他人に教えてはいけません」ということは周知されていますが、エストニアではID相手に伝え、それを入力してもらうことで手続きが進みます。
また、特に「隠すもの・秘匿するもの」というものでもないようで、講演者のIDは画面に表示されっぱなしでしたし、
「デモをしたいからあなたのIDを教えてくれ」と言われた方は他の人にも聞こえる場で口頭でのID伝達を行っていました。
パスワードや暗号キー、あるいは物理的なカードの紛失等がなければIDがバレたところで問題は無いとのことで、
そもそもIDベースですべての取引が行われたり履歴として残ったりするので、IDは誰もが知ることができるという前提でシステムや制度が組まれているというのはマイナンバーとの大きな違いですね。
現時点で電子化されていない手続きは
- 不動産取引
- 結婚
- 離婚
の3つだけとのこと。
これらが電子化されていない理由は生活に与える影響が大きいからと説明されていました。
「出会い系アプリ使うノリでアプリをスワイプすると結婚したり離婚したりするのはヤバイでしょ?」とのこと。確かに。
不動産については実際に自身が住んでいたりする家を守るという側面のほうが強かったので、
今後投資用不動産など一部分野では電子化が進むのかもなぁと感じました。
誰もがユーザとなる仕組みとし、使えるように教育をする
ここで気になったのが電子化を推進する際のコストや電子化を前提とした制度設計に反対意見は出なかったのかという点。
特にITリテラシーの高くない方(高齢者など)からすると反発や不安が大きかったのではないかというのが会場でも質問としてあげられました。
この点についてはざっくり言うと次の2つが回答でした。
- 高齢者含め、全国民がシステムの対象ユーザである
- 教育に力を入れて、きちんとケアをする
エストニアでは前述した車の譲渡だけでなく、学校関連や職場関連、果ては死亡時の相続手続きまでが電子化されています。
そのため、「私は電子政府には関係ない」という国民がおらず、全員がユーザー。
一部の国民しか使わないシステムに対して莫大な投資をするとなると、「私には関係ないのに。税金の無駄遣いだ!」といった反発も起きるのかもしれませんが、全員が対象となり、かつ全員の利便性が高まるとなると一致団結して取り組みを推進できるというのは一定理解ができる現象です。
全員が使う必要があるシステムとしたうえで、きちんと使えるように教育(学校教育はもちろん、高齢者向けの講習会など)を行ったり、問い合わせへの対応といったサポート・ケアに力を入れているとのことです。
電子版以外は使いづらくコストも高いという傾斜設計
とはいえ、やはりネット上での手続きが苦手だったり、インターネットアレルギーちっくな方向けに従来通りの紙を用いた手続きや対面での手続きも残しているそうです。
が、しかし。
これが「これでもか」というほど不便。
そもそも離島や地方では行政施設が縮小していたり撤退していたりするため、対面での手続きを求める人は中心市街までやってくる必要があります。
また、案内に関するウェブサイトも極限まで運用コストを抑えているため、レガシーなウェブサイト状態。
UI・UXがお世辞にも良いとは言えず、講演者曰く「笑っちゃうほど使いづらい」サイト。
(キャプチャを貼ろうと思ったのですが、そもそもググってもページが見つかりませんでした…)
更には電子手続きと比べて費用もかかります。
つまり、電子化に逆らって対面・紙で手続きを行おうとすると
- 遠い
- 不便
- 高い
となります。
これはITリテラシーを高めて電子政府を利用しようとするモチベーションが高まる。
ここまで露骨に傾斜を設けて政策推進が行えるというのは凄い。強い。
可視化するからこそ、安心に利用ができる
エストニアの電子政府が非常に大切にしているのは「透明性」
これは講演中にも何度も何度もアピールしていました。
どこまで透明性を担保しているのかというと、例えば
このようなグラフを誰でも閲覧することができるようになっています。
これはなにかというと、
- 誰が
- 誰の
- どの情報に
- どういった目的でアクセスしたのか
がわかるのです。
そのため、例えば車の売買を行うとその当事者間でのやり取りは記録されるばかりか公開されることとなります。
そこまでする必要はあるのか、と思われるかもしれませんが、IDを使った情報アクセスが全て公開されることで、
- 行政担当者が不要な個人情報にアクセスしていないか
- 許可していない・意図していない第三者が自身の個人情報にアクセスしていないか
- ハッキングによって勝手に資産が売却されていないか
などがしっかりと確認できる様になっているのです。
汚職や不正、個人情報の不正流用が行われないために国民全員が監視できるような設計になっているというのはとても興味深い。
重要な個人情報やデータを国に預ける以上、それをどう守りどう運用するのかというのは日本でも課題になっていますが、エストニア方式は一つのヒントになるのではないでしょうか。
ちなみに、弊社ではTofu Analyticsという製品を提供しており、これを用いると従来ブラックボックス感の強かったSNSマーケティングやインフルエンサーマーケティングの効果や二次・三次拡散過程を可視化することができます。
例えば、
– 広告代理店にまるっとSNSマーケティングを依頼しているが、本当に効果は出ているのか
– 自社やクライアントのマッチした本当のインフルエンサーは誰なのか
– 競合と自社はどのような評判の差があるのか
といったことをデータを用いて可視化することができます。
少しでも気になった方はお問い合わせ頂けますと幸いです。
Tofu Analytics製品ページ(お問い合わせや資料DLもこちら)
と、宣伝ちっくになりましたが、上述した通りTofu Analyticsという製品を提供している身としてはエストニアの透明化・可視化への取り組みには非常に感じ入るところがありました、というお話です。
エストニアという国自体はどのような状態なのか
さて、エストニアの電子政府についてはかなり先進的な取り組みをしており、学ぶところも多いということを書いてきました。
一方でエストニアという国自体はどういう状態だったのか、という話です。
街自体は発展途中
まず、街並みですが「まさにヨーロッパ」という感じ。
石造りの家や道があり、カフェテラスで多くの人がお茶を飲んでいるという長閑な雰囲気。
ただし街全体が長閑な雰囲気かというとそうでもなく、共産圏時代の建物と思われるような古い建物郡があったり、一見すると廃墟に見えるアパートメントなど、歴史や格差を感じるブロックがあったかと思えば、
大通り沿いをすべて再開発しており、近い内に巨大ビル群が立ち並ぶ予定だったりなど、まさに発展途中といった感じ。
数年後には街の印象がガラッと変わっていそうです。
その他に目立つ点といえば犬がたくさんいました。
犬を中心としてペットへの興味関心の強いお国柄なのか、駅やショッピングモールには目立つ場所にペットグッズショップがあり、犬好きとしては好感。
余談を重ねると、SUSHI CATというメイドカフェと寿司屋を悪魔合体させた店があると聞いたので足を運んだのですが、潰れていて「For RENT」な状態になっていました。
(看板の字が読めなかったのですが、Google翻訳に画像認識させることで賃貸に出ていることに気づきました。Google翻訳超便利)
インキュベーション施設にも行ってきました
国としてスタートアップの支援にも力を入れているとのことで、LIFT99というインキュベーション施設にもお邪魔してきました。
こちらもe-estonia同様、サクッとアポイントメントを取ることができます。
曜日によってオフィスツアーという体で外部の方を積極的に受け入れており、担当者にメールを送ることでスムーズに決まりました。
(担当者が大学の試験期間だということで責任者にメールを転送してもらったりなどいくつかゴタゴタはありましたが。)
インキュベーション施設は古い倉庫をリノベーションしたもののようです。
中に入ると、巣立っていった主なスタートアップのロゴがあったり、いくつかの部屋に分かれて各企業やフリーランスの方が仕事をしていたりなど、東京やシリコンバレーのインキュベーション施設と似たような雰囲気。
力を入れているのはスタートアップエコシステムの構築ということで、OB企業や投資家と入居企業をマッチングさせたり、外部の方を多く呼び込んでのイベントを多数実施しているとのことです。
エストニアは外国の方でも企業を登記したり、国籍や居住権を獲得するハードルが低いとのことで、EU圏向けのビジネスをする際にはエストニア拠点の企業を立ち上げるのも良いなと感じています。
もちろん、そういった設立手続きや申請もウェブで完結できるので極論エストニアに一度も行かずに各種権利を取得することができます。すごい。
ざっと書いてきましたが
本日は8月30日。実はエストニアに行ったのは6月中旬のことです。
バタバタしており、ブログ向けに記事を書くのに間ができてしまいました。
そのため、下記漏れていることや伝え切れていないことが多々あると思います。
少しでも気になることや、質問がある方がいらっしゃれば、コメントやSNSでのメッセージを頂ければと思います。
また、今回の視察で得た学びを取り込みつつ弊社も事業を推進していきますので、「一緒になにかやりたい」「データの可視化・分析に興味がある」「Tofuを使いたい」といった方もぜひお問い合わせください。
また、本情報は多くの方に知っていただければと思い記事にしていますので、ぜひSNSでのシェアやはてなブックマークをお願いします!
おしまい